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国内外でのあれこれ(1)

2026年6月17日


私はこれまでの人生の中で、巡りあわせという、貴重な経験をしたことがあります。

 これはその一つですが、原産地証明書の偽造事件に関ったことから起きたことです。

 私が若い頃、西アフリカにあるセネガル国の日本大使館で勤務したことがあり、当時世界中の日本大使館の中で、セネガル国の日本大使館は多くの兼轄国を抱える国の一つでした。

 私は、このセネガル国での勤務が人生の中において転換点であったように思っています。

 セネガル国は、北にモーリタニア国(仏語)、東にマリ国(仏語)、南にギニア・ビサオ国(ポルトガル語)、西の洋上セネガルから約500km離れた島にカーボベルデ国(ポルトガル語)、そして奇妙なことにセネガル国の真中に入り込んだガンビア国(英語)の5ケ国を抱え、外交活動をしていました。

 原産地偽造事件とは、そのモーリタニア国からのタコの我が国への輸入に際し、偽造された原産地証明書が税関に提出されたことです。

タコの関税率は、基本税率が10%、暫定税率(国民経済の発展に必要な物品の関税率の暫定特例により低い税率に設定されたものとして1年間定められたもの)が7%、開発途上国向特恵税率が5%、後発開発途上国向特恵税率が0%という中にあって、実際にはスペイン国ラスパルマス島産(7%)や、モロッコ国産(5%)のタコを後発開発途上国であるモーリタニア国の特恵税率0%を利用して、これらのタコをモーリタニア国産と偽って輸入申告を行い、密輸入を図ったものです。同証明書には、品名のタコ、その数量、価格等のほかにモーリタニア国の当局担当者のサインと当局の印を押印したように見えるものが確認されました。

 私は、当時東京税関で全国の情報部門を束ねる密輸情報分析センターの立ち上げを行っていましたが、以前にセネガル国でフランス語を使っていた経験からフランス語での原産地証明書の真偽を尋ねられ、在京のモーリタニア大使館に照会を行い、その真偽を尋ねていました。あまりに照会件数が多かったことから、モーリタニア国大使より同国に行って調査してくればどうかとの意向が寄せられました。

 これにより、大蔵省本省の了解を得て、私と東京・横浜税関の担当者各1名の計3名で同国に赴き、同国の原産地証明書の発給手続等を調査しました。最初に、漁業大臣に面会し状況を説明の上調査協力をお願いしたところ、幸いなことに同大臣はちょうど日本外務省の要人招聘事業として来日された経験があることもあり、快く引き受けてくださいました。同大臣は4月頃の来日で、ちょうど桜がきれいな季節で、大変良かったとの印象を述べておられました。

 調査先として同国首都のヌアクショットと、漁業の中心となる同国北部にある都市のヌアディブで調査を行いました。

 当方3名は調査を終了し、安堵して近くのレストランで食事をとろうと入ったのは、ラスパルマス島に向けて出国する前日の夜でした。そこで目にしたのは大型テレビで映していた2001年9月11日のテロ事件の模様でした。この時は何が何だかわからずレストランの皆さんも私語を押さえてテレビを見入っていました。

 このようなテロ事件があり、また回教国であるモーリタニア国ということから不安を抱えながらも、しかし座席番号が1番だったので安心してゆっくりと、飛行機に乗り込もうとしたところ、同国の税関職員から早く乗り込めとの指示があり、なぜだかわからないままあわてて乗り込みました。すると、機内は乗客でごった返しており、私の座るはずの1番には座れず、前から3列目の2人席の真ん中、つまりひじ掛けを上にあげてそこに座るよう指示され座りました。私だけでなく、同僚や他にも数人同じような形で座ったり、或いはトイレ近くの壁に数人立っていたりと、まるでバスに乗っているような感じであったことから、フランス等ヨーロッパで製造されているエアーバスだなと冗談を言ったりしていました。

 また、仮にこの飛行機が定員オーバーで落ちることとなった場合でも、世間はテロの犠牲になったと思うのではないかと、3名で談笑しておりました。

 その後、スペイン国ラスパルマス島に到着し、同地に住む日本人がこの事件に関与しているとの情報から関係者に会い、帰国後速やかに税関に赴き、事件の概要等について説明するよう、協力依頼を行いました。

 その後、スペイン国南部に赴き、同様の作業を行い、帰国しました。

 帰国後、幹部から「よく無事に帰ってこられたな。」と、米国のテロ事件のことを思いながらも労いの言葉を頂きました。

 事件の解明はとんとん拍子で進められ、検察に起訴し、私の東京税関在任中に事件解決となりました。

私としては、モーリタニア国にまた行くことはないと信じていましたが、このような事態に直面し、行かざるを得ないこととなった次第です。

それにしても、9.11のテロ事件は大オマケで、私たちを不安にさせたばかりでなく、家族の不安もそれ以上であったことと思います。

(以 上)

浜田 栄